salon.com 2009年5月18日
ミツバチの死で農薬が訴えられる
農業当局 世界で最も売れている殺虫剤の調査を再開
全国のミツバチの群れの謎の崩壊を解決するために

情報源 salon.com, May 18, 2009
Pesticides indicted in bee deaths
Agriculture officials have renewed their scrutiny of the world's best-selling pest-killer
as they try to solve the mysterious collapse of the nation's hives.
By Julia Scott
http://www.salon.com/env/feature/2009/05/18/bees_pesticides/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2009年5月20日



J.P. Myers
 ジェネ・ブランディはいつも2007年の夏のことを悔やんでいる。それはこのカリフォルニアの養蜂業者が彼のミツバチの半分、1,000箱を授粉期にサン・ジョアクイン・バレーのスイカ栽培農家に貸した時のことである。次の冬にブランディのミツバチの50%は死んだ。”非常に多くが消えてしまった”と35年間、養蜂をしてきたブランディは述べた。

 2006年の全米のミツバチの群れが消失する不思議な蜂群崩壊症候群(colony collapse disorder)(訳注1)騒ぎ以来、ブランディは、毎年、彼のミツバチの40%が蜜を探しに巣箱を離れたまま決して戻らずに姿を消してしまうことに慣れてしまっていた。しかし、これは少し違う。スイカ畑で仕事をさせないミツバチは、群れから消滅することはなく、繁栄していることにブランディは気がついた。

 ブランディは、スイカ栽培農家は作物を世界で最もよく売れている殺虫剤イミダクロプリド(imidacloprid)(訳注2)を混ぜた水で灌漑していたことを発見した。この殺虫剤は世界最大の農薬及び遺伝子組み換え種子のメーカのひとつであり、年間売り上げが86億ドル(約8,600億円)のバイエル・クロップサイエンス社が製造しているものである。水と混ぜ土壌にかけることでイミダクロプリドは、暑い日には混合物の湿気を作りだし、ミツバチは酔っ払ったようになる

 ブランディのような話がよくあるので、アメリカで最大の二つの養蜂業者の協会を代表する全国ミツバチ諮問委員会は最近米環境保護庁にこの製品を禁止するよう要求した。”我々はイミダクロプリドがミツバチを殺す、特にそれはミツバチの群れを崩壊させると信じている”と同委員会の共同議長であるクリント・ウォーカーは述べた。

 養蜂業者らは、イミダクロプリドと、これもまたバイエル・クロップサイエンス社が製造している同類のクロチアニジン(clothianidin)をこの10年以上世界中で起きているミツバチ激減の原因のひとつとして選び出した。もっと最近、同じ製品がアメリカの養蜂業者らにより非難されたが、彼らはこの製品は蜂群崩壊症候群の原因であり、2006年以来少なくともアメリカの多くの商業養蜂業者のミツバチの3分の1に損害に与え、世界の食料供給の信頼性を脅かしたと主張している。

 科学者らは、2007年にバイエル・クロップサイエンス社自身の発表により、アメリカで新たな詮索を受けいているこの二つの製品に注意を向け始めた。バイエルの科学者らは木や低木の花の花蜜や花粉からのイミダクロプリドはミツバチを数分で殺すのに十分な濃度であることを発見した。この事実によりカリフォルニア農薬規制局と米EPAはこの製品の見直しを開始した。テストは2014年に完了する予定であるが、シエラクラブを含む環境団体はEPAに作業をスピードアップするよう請願している。

 10年以上の間、バイエル・クロップサイエンスは、養蜂業者や環境団体による禁止要求に対して、この農薬とその一族の農薬について防戦せざるを得なかった。フランスの養蜂業者らは、同国における1999年からの使用の後、3回ミツバチが死んだ後にいくつかの作物でのイミダクロプリド禁止を勝ち取ったが、バイエルがすぐに指摘しているようにフランスのミツバチ個体数は全く回復しなかった。ドイツは、ドイツ南東でミツバチの60%を殺すことを示唆するテストの後、2008年にクロチアニジンと他の7種の殺虫剤の使用を禁止した。

 イミダクロプリドとクロチアニジンは、昆虫の神経系を攻撃する強力な毒素であるニコチンと塩素の合成化合物である。この化学物質は植物の種子消毒に使われ、土壌に加えられ、または作物に散布され、植物の組織の隅々にまで広がり、それを食する昆虫を殺す。

 ペンシルベニア州の養蜂家ジョン・マクドナルドは30年以上養蜂をやっており、最近、イミダクロプリドは蜂群崩壊症候群に関連していると確信するようになった。彼が見つけることのできた唯一の説明は、この農薬を使用している畑に隣接する箱のミツバチが数年前急に死に始めたということである。

 ”それには致命的な有毒影響がある。ニコチンが神経系に影響を及ぼしている”とマクドナルドは言う。”病理学的な影響、基本的機能の阻害がある。ミツバチは混乱し方向を失う。そして地面に落ちる。体が麻痺し、羽が突き出る。私は環境中で農薬以外に原因となるものを考えつくことはできないし、実際にどこの農家も現在、この処理された種子を使用している”。

 バイエル・クロップサイエンスの報道担当官ジャック・ボインは、彼の会社の農薬のせいではないと言う。”我々は多くの製品テストをしており、殺虫剤を含んで農薬が蜂群崩壊症候群の原因ではないことを示唆する非常によい多くの証拠を持っているように感じる”と彼は言う。”農薬は現在まで長年存在しており、蜂群崩壊症候群はこの数年のことである”。(イミダクロプリドはアメリカでは1994年以来、使用が承認されており、クロチアニジンは2003年以来使用されている。)

 科学者らは、蜂群崩壊症候群の原因調査を続けている。有力な学説は、寄生ダニ、病気、栄養不良、及び農薬、殺虫剤、殺菌剤のような環境的汚染物質などの要素の組み合わせであると示唆している。現行のEPAのレビューは、イミダクロプリドに暴露して病気になったミツバチが汚染した蜜や花粉を巣箱に落ち帰ることによりそれが周囲に拡散するかどうかを明らかにするので、農薬の役割についてのさらなる展望を提供することになるであろう。

 EPAの批評家は、EPAが15年前にイミダクロプリドのアメリカでの販売を許可したときに、ミツバチの健康より経済的な考慮を優先したことを示唆している。”私は、EPAとUSDA(米農務省)はバイエル社のためにもみ消そうとしており、現在、彼等はそれについて何かするためにあわてている”とシエラ・クラブに農薬やその他の問題について助言している植物生物学者ネイル・カーマンは言う。”このレビューは、10年前に完了しているべきであった。バイエル社により報告されているより環境中でもっと残留性があることが判明している”。

 イミダクロプリドは、ガウチョ(ゴーショ)(Gaucho)、コンフィドール(Confidor)、アドマイヤー(Admire)、その他の名前で市場に出ている。この製品がミツバチにとってある状況の下では死を招くという知見あったのに、EPAにより承認された。今日、EPA自身の文献が、この農薬はミツバチやその他の有益な昆虫に”非常に有毒”であるとしている。その回避法は、農家は近辺でミツバチが飛び回っているいるときには散布しないこという警告ラベルをピシャリと製品に貼り付けることである(訳注3)。

 2007年の研究で、バイエル社は、イミダクロプリドの標準用量を、リンゴ、ライム、ハナミズキを含むテスト樹木に散布した。バイエルの科学者らは、花蜜中に最高4,000ppbの濃度でイミダクロプリドを検出したが、それは何匹かのミツバチをすぐに殺すのに十分な濃度であった。(ミツバチは、185ppbの用量まで耐えることができ、標準用量はテスト個体数の50%を殺す量である。)カリフォルニア農業当局が注目したことは、そのテスト樹木が、定期的に農家によって散布され、ミツバチにより授粉されている柑橘類やアーモンド果樹園と同じ量の致死的イミダクロプリドを含んでいるということであった。(カリフォルニアのアーモンド産業は過去5年間に300倍、イミダクロプリドの使用量を増やした。)農業当局はまた、イミダクロプリドは葉や花の中に1年以上残留することができるということを知って驚かされた。

 バイエル社の結果は、カリフォルニア大学デービス校の教授でよく知られた昆虫学者であり、米国の蜂群崩壊症候群に関する主導的専門家であるエリック・ムッセンを驚かすことはなかった。ムッセンは、散布されてから丸1年後にユーカリの花の花蜜中にイミダクロプリドが550ppbの濃度で存在することを示したカリフォルニア大学リバーサイド校の研究を含んで、様々な未発表の同様な結果の研究を見ていた。

 ”樹木に関するデータのいくつかから、ミツバチが物質の真に有毒な用量に暴露する状況があるように見える”とカリフォルニア大学デービス校の彼自身の試験場で散布することを回避しているムッセンは述べる。”これは、木に散布すると長い間残留することがありうることを示した最初のものである”。

 しかしムッセンは、イミダクロプリドがミツバチ激減の一次原因であるとは確信していない。彼は、ミツバチのあるものはこの化学物質を施されたヒマワリやカノーラの畑にとどまり、”翌年も正常に飛び回っている”と説明する。したがってイミダクロプリドだけが物語の主役ではない。”物語の一部の役割を果たしているのかもしれない。ミツバチが巣箱に持ち帰る他のどのような農薬もミツバチを害していると思うし、そのように確信している”。

 ムッセンは、現在進行中の殺虫剤への慢性暴露についての研究は非常に重要であると付け加える。低用量の暴露であってもワンツーパンチのように効き、ミツバチを寄生虫や病原菌で死ぬまで弱らせるようであると彼は言う。

 EPAは今年、農薬研究を開始するが、懐疑論者はEPAが偏向しないレビューを実施できるかどうか疑っている。2003年のことを振り返ると、EPAは、クロチアニジンは”急性暴露ではミツバチに極めて毒性が高い”と報告しており、また慢性暴露は幼虫への影響と女王バチへの生殖影響をもたらす可能性があることを示唆したと彼等は指摘する。EPAはバイエル社にミツバチに関する影響についてのさらなる研究を求めたが、それでもその化学物質を市場に出すことを認可した。

 もしEPAが他の研究が主張するようなミツバチへの悪影響に十分に懸念を持つなら、とりあえずそれを承認し、その後で研究を求めるというのはおかしいと、天然資源防衛協議会(NRDC)の弁護士であるアーロン・コランゲロは述べている。”EPAの仕事は化学物質が安全かどうかについて決定することである”。

 コランゲロは来年も同様な展開を心に描いている。EPAはクロチアニジン及びそれと同族の他の化学物質をレビューするであろうと発表しているが、それは2012年までにではない。それまで、EPAが既存の政策に基づき新しい作物への殺虫剤の使用の承認をやめさせるすべはない。結局コランゲロは、連邦機関であるEPAが農業ビジネスの巨人に断固とした措置をとるなどということはほとんど信じていない。EPAはしばしば、テスト結果について会社の要求で所有権を理由に秘密にすると彼は説明する。その結果、会社がバイエルと同じように公表するまでどこにギャップ又は不一致があったのか不明確のままである。

 ”EPAは、有害影響の証拠がどのようにあっても、ミツバチへの影響に基づいて農薬を市場に出すことができるかどうかを決定することはない”とコランゲロは述べる。”EPAはとにかくそれを承認し、製品に警告ラベルを張るだけである”。

 しかし、農薬の販売を停止するということは大変なことである。120か国以上で、140以上の様々な作物だけでなく、シロアリや犬猫のシラミ除け首輪、家庭用園芸にまでバイエル商標のイミダクロプリドが使用されている。製品の特許は数年前に切れており、数十の小さな会社により、ノーブランド(ジェネリック)殺虫剤として販売される道が開かれている。カリフォルニアでは、イミダクロプリドは50の異なる会社によって販売されている247の異なる製品の中心的な成分である。

 声明の中でEPAは、農薬を禁止する前に、EPAは”切迫した危険が存在することを見つけなくてはならない。連邦裁判所は、そのためにEPAはとりわけその農薬の使用により逼迫した深刻な害があることの確固とした可能性があることを結論付けなくてはならないと裁定した”と述べている。EPAは、何が”逼迫した危険”かについて、またなぜミツバチの死がそれに該当しないのかについて説明していない。

 ムッセンが指摘するように、数百万の死んだミツバチはビジネスをやる上での必要なコストなのかもしれない。”もし、彼らがミツバチに有害な製品を登録していなけば、害虫管理に利用可能な多くの製品が市場にでることはなかったであろう”。

 世界中のどこにでもあるこの殺虫剤を市場からなくすことについての会話を始めるための理由がたくさんあると全国ミツバチ諮問委員会のウォーカーは主張する。”それはどこのゴルフ場でも使われている、どこの芝生でも使われてる。それらは農業用製品だけではない。それらは実際には我々の生活の重要な部分ではない。

記者について
 サンフランシスコを拠点とするジャーナリスト、ジュリア・スコット(Julia Scott)は様々な出版物として水やエネルギーについて書いている。彼女はまた、カリフォルニア北部の新聞社のチェーンである Bay Area News Group で環境を扱っている。


訳注1
蜂群崩壊症候群 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2
イミダクロプリド:国際化学物質安全性カード

訳注3 バイエル・クロップサイエンス社の日本語ウェブページでの警告
http://www.bayercropscience.co.jp/php/product_detail.php?id=18562&kind=4

アドマイヤー・フロアブル
種類名:イミダクロプリド水和剤

使用上の注意の一部
■ミツバチに対して影響がありますので、以下のことに注意して下さい。
  • ミツバチの巣箱およびその周辺に飛散する恐れがある場合には使用しないで下さい。
  • 受粉促進を目的としてミツバチ等を放飼中の施設や果樹園等では使用を避けて下さい。
  • 養蜂が行われている地区では周辺への飛散に注意する等、ミツバチの危害防止に努めて下さい。

    ■本剤を無人ヘリコプターによる散布に使用する場合は次の注意事項を守って下さい。
  • ミツバチに対して影響がありますので、養蜂が行われている地区では都道府県の畜産部局と連絡し、ミツバチの危害防止に努めて下さい。



  • 化学物質問題市民研究会
    トップページに戻る